性病(STD)の感染経路を知って予防対策

*

自覚症状が少ない性病が拡大中!不妊の原因となるクラミジアは特に注意

パートナーの男性がいる女性がセックスをするうえで常に意識しておきたいのが、"性病"(性感染症)と"望まない妊娠"です。性病には感染者が最も多いクラミジア感染症をはじめ、淋病、カンジダ膣炎、2015年に過去最大の感染者数を記録した梅毒性器ヘルペス尖圭コンジローマなど多くの種類がありますが、婦人科で診察する機会が多いのが、クラミジア感染症です。

不妊症が不安な女性

クラミジア感染症は、"クラミジア・トラコマティス"という細菌の感染が原因で、主な感染経路はセックスとなっています。若い女性の間でオーラルセックスへの抵抗が少なくなっていることから、性器だけでなく喉にクラミジアが感染するケースが増えてきました。

クラミジアに感染するとオリモノの量が増えたり、外陰部の違和感などの症状が現れることもありますが、多くの女性は自覚症状がありません。そして、子宮や卵管に炎症が広がって下腹部痛などが現れて初めて感染の事実に気付くのですが、感染が進んでいると、卵管が塞がっていたり、炎症で組織同士が癒着しているなど、外科手術を行わないと妊娠が難しい状態に陥っていることも少なくありません。

医療機関への救急搬送と聞くと交通事故や脳卒中、心筋梗塞などを想像する方が多いと思いますが、クラミジアを放置して炎症が拡大したため、立つこともできないくらいの激しい腹痛を訴えて病院に搬送される女性も少なくありません。クラミジアが子宮から腹腔内に広がり、腹膜炎を起こしてしまうのです。腹膜炎の段階にまで悪化していると、腹腔一杯に膿が溜まっているため、開腹手術が必要となります。

結婚してから数年たっても妊娠しないため、不妊症を疑って婦人科を受診した女性の膣分泌液を調べてみると、クラミジアに感染していたというケースもよくあります。炎症による癒着が子宮や卵巣にも広がっていたため、精子が着床しにくい状態になって不妊になるのです。

クラミジアの感染はヘラのような器具で分泌物を拭い取ったり、血液検査で抗体をしらべることで簡単にわかります。治療はジスロマックという抗菌薬を1回飲むだけでほとんどの人が治ります。検査と治療は簡単なのに若者を中心に感染が広がっているのは、自覚症状が乏しいため、セックスを重ねるなかで知らないうちに相手に病気を移しているからです。

HIVの注意文

クラミジアや淋病、ヘルペスなどに罹っている人は、健康な人に比べてエイズに3~5倍ほどかかりやすいとされています。リスクが高まるのは、これらの性病に感染すると、皮膚粘膜が荒れるためバリア機能が失われるからです。エイズは性が開放的な欧米、医療体制が整備されていないアフリカなどの病気と思っている人がいますが、先進国でエイズが増加傾向にあるのは日本だけです。

エイズは、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染で起きる性病です。潜伏期間が非常に長いため感染に気づきにくいですが、エイズを発症すると免疫力が著しく低下して、普段なら健康に害を及ぼさない常在菌やウイルスに感染しても重篤な症状が現れます。

日本国内におけるエイズの検査率は0.1%程度(異説あり)と非常に低くなっており、これが感染拡大の背景にあるとされています。お住いの自治体にある保健所ではHIVの検査が無料かつ匿名で受けることができます。保健所の検査時間に間に合わない方は、クリニックなどでも検査が受けられます。近年はすぐに結果がわかる即日検査を実施しているクリニックも多いので、不安を抱えたまま過ごしたくない方はそちらを利用するとよいでしょう。

男性と比較して女性の性病の症状は自覚症状に乏しいことが多いので、最悪の場合、婦人科を受診した時には不妊になっている可能性もあります。オリモノが増えた、外陰部がかゆい、痛みがあるなどの症状は、クラミジアに限らず性病が疑われる典型的な症状です。これらの症状が現れた場合は、手遅れにならないうちに婦人科を受診しましょう。性病の感染が確認された場合、パートナーも一緒に治療を受けないと、相互に感染させてしまう「ピンポン感染」を繰り返してしまうことになります。

また、性病の原因菌やウイルスが母親から胎児に移る(垂直感染)こともあり、胎盤から感染したり、出産時に感染したりします。クラミジアの場合、産道で感染して新生児肺炎や結膜炎を起こす恐れがあるので、妊娠後期に必ず検査を行います。

性病を予防するには、セックスをしないことが一番ですが、非現実的ですので、まずは不特定多数とのセックスを避けることです。コンドームでは完全に予防できない性病もありますが、多くの場合においてコンドームを着用することで感染リスクを大きく低下させることができます。

結婚前のカップルに勧めたい婦人科のブライダルチェック

一昔前、お見合いに仲人を立てて行っていた時代、性病の有無を診断して提出するという習慣がありました。現在、結婚前のカップル(特に女性)が受けているブライダルチェックのはじまりはここにあります。性病だけでなく、B型、C型肝炎など、相手に写る可能性のある病気や、結婚前に治しておく病気は少なくありません。

カップルのための婦人科検診

実際、妊娠して初めて病気の感染がわかり、その時点では治療が難しいケースもあります。婦人科の病気は、月経などのホルモンの影響を受けて、自覚症状が無くても、進行するものが多いので、結婚が決まったらブライダルチェックが勧められます。

現在のブライダルチェックは、一般に性病だけでなく、がん検診、肺、肝臓、腎臓の機能検査など体全般を検査します。具体的には、血液検査、おりものの検査、膣分泌物の採取、内診、経膣超音波検査などを行い、クラミジア、カンジダ膣炎、トリコモナス膣炎などの性病、子宮頸がん、乳がん、子宮筋腫、子宮内膜症、卵巣嚢腫などがないかを調べます。

性病の体験談などを見ると、クラミジアや淋病が無症状のまま進行して、子宮頸管や卵管が妊娠しにくい状態になっている女性も少なくないようなので、晩婚化が進んでいる今日、安心して赤ちゃんを産むための準備として、ブライダルチェックはますます重要になるでしょう。

男性も一緒にクリニックで検査を受けて、性病が原因で精子の活動、量、形状などに異常がないか、それが原因で男性不妊症となっていないかを調べてもらいます。